雨の国の王者

探偵小説好事家本人のためのノート

藤沢周平『よろずや平四郎活人剣(下)』文藝春秋社(文春文庫)

 この連作についての作者の野心は、すでに多くの方が取り上げているだろうし、目新しくもないかもしない。わたくしが偉そうに宣うことはないかもしれないが、これはわたくしの覚書だからこそ、書き記す。
 と云うと、大げさすぎるね。まあ、日ごろ、探偵小説を読んでいるひとからすると、やあそうだね、という類いのものだ。
 とどのつまりは、本書は、装いは、市井の時代小説へと換骨奪胎してはいるけれども、これはまごうことなき国産私立探偵小説なのだ。
 例えば、捕物帳という時代小説の趣向は、今も前例を踏襲し書き続けれているし、また、ハードボイルドという米国産の探偵小説も、藤沢周平は、自らの作品で具体化しているが、それがなんと、私立探偵小説を時代小説に移管するとは。ううむと唸るばかりだ。
 また、主人公の友人たちが登場する各篇が、バッドエンドとならないところが、うれしい。
 そして、めでたしめでたしの結末から、新たな時代へ。
 なんとも魅力てきな、連作集だ。 
 2023年12月13日読了。